Nenashi 『Found in Tokyo』 セルフライナーノーツ

 

「根無し草」とは。

根のない草。浮いて漂う物。また、浮いて定まらない物事にたとえていう。(広辞苑)Rootless wanderer. 英

2019年3月にリリースされた、デビューシングル「Lost in Translation」から遡ること約1年半。

origami PRODUCITONS プロデュースのとあるサントラに見慣れない名前が。

「Nenashi」(ネナシ) 。

根を張らず、世界を渡り活躍する、グローバルなアーティストになるべく、シンガー「Hiro-a-key」(ヒロアキー)がスタートしたプロジェクト。

音楽に国境はない。そう信じているのは、今までに約20カ国程訪れたり、定住した経験を元にリアルに感じているモットーです。

先入観やレッテルなしに、純粋に音楽だけ聴いて欲しい。そんな思いから、国籍や人種、アイデンティティーを隠し、より多くの人に届けばと、英語で歌ってきました。

幼少期~思春期をアメリカ (NY, LA) で過ごした為、英語で表現する事、異文化や多くの人種、宗教等に隔たりなく興味を持てたのは、そのおかげかもしれません。

そして1st シングルから1年。世の中を絶望に突き落とすような感染症によるパンデミックが。

世界へ旅する事が創作の原動力となっていましたが、そんな道は閉ざされます。でも、インターネットを通して異国の素晴らしいアーティストとコラボする機会に恵まれます。「音楽」で繋がり、救われたのは、僕だけではないと思います。

2021年10月にリリースされた「Scars」のMV公開とともに、「Hiro-a-key」であることを公表。

マスクを外せる世界に希望を持ち、人種や性に対する差別、文化の盗用など様々な問題が浮き彫りになる中、日本人として、R&B / SOUL / Hip Hop / Jazz を主に歌うことを改めて考え、独自に昇華したスタイルで世界に発信続けてきました。

アルバムリリース直前の作品についても、エジプト・イスラエルを旅して感じたことを落とし込んだり、アメリカとタイのアーティストを招いて、それぞれの内なる美について表現した作品が生まれたり、そんなボーダーレスな「Nenashi」が初めてリリースするアルバム『Found in Tokyo』。

生まれた地でも、育った地でもない「東京」で「見つけて」もらったという意味と、「Hiro-a-key」の活動を通して、「東京」で「築き上げて」きたという意味。全11曲には恋愛をはじめ、仲間に向けた想い、そして世の中に対する想いなど様々な日常がしたためられています。

曲単位で聴くストリーミングが主な時代に、故Princeも「アルバムは大事。本や、黒人の命も大事」と言っていましたが、アルバムという形で1枚に集約されたストーリーたちをCDやアナログ盤など、形として残せることはとても嬉しいことです。

そんな曲たちの歌詞はもちろん、訳詞と共にライナーノーツもぜひ楽しんで下さい。

 


 

1. Lost in Translation 

2019年にリリースしたデビューシングル。Alternative R&B なサウンドに仕上がったデビュー作です。恋愛や様々な人間関係において、言葉のすれ違いでうまく伝わらない、なんて事を嘆いた曲です。同タイトルの映画も何度か見て印象に残ってます。一時期、Kibunyaもその映画の舞台になった場所で演奏していて、見に行ったこともあるので、より思い入れのある1曲になりました。

 

2. Say My Name

今アルバム「Found in Tokyo」のリードシングルです。昔からの友人や、最近知り合った人からもふと相談をされることがあります。Carole King の「You’ve got a friend」的な感じで、困った時はいつでも電話してね、飛んでいくよ。と歌った曲です。feat. 参加してくれた Daichiさんもその意図をしっかりと汲み取ってくれて、最高な1曲になりました。「大人になると、助けて」ってなかなか言えないけど、”Say My Name” 。

 

3. Scars

2021年にリリースした5th シングル。このタイミングで、アイデンティを明かしたことにより大きな反響を頂きましたが、Nenashiとはどんなアーティストなのか?と言うのを1番アピールできる曲になったと思います。シンプルなコード進行で、サビはMoniqueに協力頂き、力強いメッセージソングになりました。大変な時期を乗り越えて「傷跡」は残ったかもしれないけど、それもきっといつか振り返れば、経験や知恵に変わっている。というような、みんなでなんとか生きてこうと歌いました。

 

4. Take Me Back

当初は失恋の歌として書き始めましたが、進めていくうちに、明るめな曲調にマッチするような内容に変えようと方向転換しました。幼少期の夢だった「世界中を旅する」を大人になって振り返るというテーマになり、久しぶりの海外旅行でエジプト・イスラエルを周り、その体験を歌詞にしました。途中の言葉が詰まっているところは、自分としても新しいアプローチができたと思います。Andreaのコーラスで厚みが増して、最後のシャウトも気に入ってます。

 

5. Unlikely Soul feat. FORD TRIO & Mike Larry Draw

2023年にオーディオブランド「Beats」のスペシャルムービー用に作ったビートを元に仕上げた1曲です。当初からサビのメロディは浮かんでいましたが、書きたい内容が思い浮かばなかったので、Kibunyaとランダムにトピックを選びました。その結果出てきたワードが「Unlikely Soul」。普段使う単語の組み合わせではないのですが、響きも良く、「見かけによらず芯がある」、「内なる美」的な意味が想像を掻き立てられました。feat. 参加してくれた Mike Larry Draw、FORD TRIOにも三者三様で、歌ってもらいました。ドライブ感あるビートも、今までのNenashi作品とは少し変わったノリノリな曲になったなと思ってます。

  

6.  Gonna Be Good feat. J.LAMOTTA すずめ

世の中が本当に大変な時期に、シンプルに「Gonna Be Good」、きっとうまくいく、きっと世の中よくなると歌った曲です。Kibunyaのトランペット&シンセの音色が十分に生かされてる曲だと思います。エンジニアのyasu2000さんに、そのレイヤー感を何度かトライしてもらったこだわりのサウンドです。フィーチャリングのSuzumeは、instagramのDMを通してオファーしました。こんな形でイスラエルの歌姫とコラボ出来た事は本当に宝です。彼女の歌はもちろん、人柄も素敵な大好きなアーティストです。みんなでサビを合唱したい1曲です。

 

7. Be (Vis ta Vie) feat. 20syl from Hocus Pocus

フランスの国民的バンド、Hocus Pocusのラッパー 20syl をfeat. に迎えたAlternativeなナンバーです。大事な友人に向けて書いた曲ですが、世の中のタイミング的により多くの人に受け入れてもらったなと感じてます。Hocus Pocusは、来日ツアーでOvallとの対バン時に見ていたので、まさか20sylとのコラボが叶うとは思ってもいませんでした。フランス語のラップかっこいいですよね。ストリーミングサービスを経て、よりたくさんの国・地域の人に知ってもらえた大切な曲です。

 

8.Satellite Lovers

Alternative R&Bのテイストで、よりシンセサウンドを打ち出し、遠距離恋愛をテーマにした曲です。時空を超えて、人のことを想う素敵な関係を歌いました。ジャケットは、映画「君の名を」をイメージしてSachikoさんに作って頂きました。リリックビデオも月と太陽をモチーフに宇宙的なビジュアルに。

 

9. Pickin’

ライヴでノリがいい曲が欲しいよね?と作った曲を、ブラシアップして収録。やっぱり愛し愛されたいから、出会いたいんです。激しい恋愛もいいけど、普段から側にいてくれるような落ち着ける愛を本当は探してるんじゃないかな。シンプルだけど、それが一番難しい? 分かるよ。きっと見つかると信じてるけど、どうなんだろう。でも、独りでいることって過小評価されてない?まぁ、一息入れてこう。

 

10. Work Song

この曲も、今までのNenashiのアプローチとはちょっと違う形で出来たサウンドです。ファンク寄りのHip Hopとでも言いましょうか、遊び心入ったトラックに、「とにかく働こう」ってテーマです。Kibunyaと知り合った時のことを振り返りながら書きました。Mikeは、またちょっと違う切り口で「働く」を表現してくれてます。

 

11. Sunny

今作の中で1番最後に収録した曲です。滑り込みセーフ。Scarsにも通じる日曜日の教会感から、サビの内容も「Weekend」感を出したtuneです。1週間お疲れ様でした。休みの日はどうしようか?ちょっと足伸ばして、リオにでも行ってみる?なんて気分になってくれるといいな。後半のピアノソロ by Kibunyaも本当に大好きな1曲です。新たな1日を健やかに迎えられますように。

 


こんな内容の11曲です。

すれ違いを歌った1曲目以外は、基本的に前向きになれるといいなと思って作った曲です。サウンド面でも当初はAlternative R&Bなテイストで、ちょっとドリーミーな曲が続きましたが、コロナ禍を経て、明るめなサウンドに変わって来たかなと感じています。サウンド面で、相棒 Kibunyaなしでは完成しなかったアルバムです。そしてトータルのバランス感としても、エンジニアのyasu2000さんに全曲MIXしてもらい、Nenashiの世界観をまとめ上げてもらってます。

5年の間にみんなの力も、単純に技術も向上してきたので、アルバムとして曲を並べてみると、ちょっと変わりすぎたかな?とも思いましたが、個人的には全く色褪せてないなと感じてます。

8曲(シングル7曲、リミックス1曲)ある砂漠のジャケシリーズもこのアルバムで完結です。Sachikoさんの絶妙な色味加減や加工具合に、なかなか「顔」だと気が付かなかった人もいるのではないでしょうか。

アー写を横に90度回転させたことで、こんなストーリーが作れるとは。今では「ラクダ」のキャラクターなどを見かけるとなんかラッキーと思ってしまいます。そして個人的に2022年に訪れたエジプトのピラミッドをラクダに乗って1周したのは、一生の宝物です。

「根無し」と「気分屋」がこうして音楽を作っていけるのも、「東京」そして「日本」の音楽シーンに根を張り続けている origami PRODUCTIONS のみんながいるからだと思っています。

その地域にいる人との具体的な関係で、愛や友情、信頼が築き上げられ、目に見えなくても形になっていきます。

「Nenashi」を見つけてくれてありがとう。聴いてくれてありがとう。You found me. 「Found in Tokyo」宜しくお願いします。